Novels@solo/trio

サークル「solo/trio」の小説置き場です。

<C&P>うちの本丸―朝―:加州清光

【本編に入る前に】


■女審神者(ただし、俺っ子で男勝り)
■あざとくない加州
■拙い文章(脳内ただ漏れ文章)
■微かな恋愛要素
■それでもおk!なんでもこい!という方向け





【うちの本丸―朝―:加州清光】


『―――』

ふと、意識が浮上する。
微睡む視界の中、眼前に折り畳まれている自分の腕を視認する。まだ覚醒しないためか体の節々には感覚がなく、ただ布団の重みのみを体全体で感じているだけだ。意識して一つ息を吐くたびに、視界と意識はより鮮明になる。

こんなに心中穏やかな朝は久々だ。

そんな風に思った。

審神者になる前か ら不眠の気があったり、性格的な問題で基本的に朝には無駄に不愉快な気分になることが多かった。単純に朝が辛いというわけではない。
自分が息をしていることに不快感があったのだ。曰く、なんで生きてるのだろうか、と。悪夢から覚めても悪夢のような現実に急かされる。ある一種の場違い感。
まぁ、そんなことはどうでもいい。寝覚めがいいに越したことはない。

今日の予定を考えつつ体を起こそうと力を入れるが、やたら首のあたりが重い。触れてみると、温かい。形状的に…腕?え?誰の?

「ん…?どうしたの主ぃ」

頭上から聞き覚えのある声に微睡んでいた意識が覚醒した。
顔を上げるとすぐそこ―――息が掛かるほど近くに整った顔に赤い目が二つ。いつも結われている綺 麗な髪は彼の輪郭に沿って柔らかな曲線を描いている。驚きで息を吸うと、彼のにおいが鼻孔を刺激する。これは夢じゃない。
何の反応もできずに凝視していると彼は柔らかく微笑む。

「もう起きるの?まだ時間あるし~。・・・もうちょっと、ね?」
『・・・。・・・・・・・・・経緯を説明しろ、加州』

驚きすぎてなにから言うべきかなんて思いつかない。昨日のことを思い返すが、特になにかあったわけではない。確かに、寝たときは一人だったはず。酔っていたとかそういうわけではない。夜寝る前に加州とは会ったが、こうなってしまうような会話はなかったと思う。

「あれ?主怒ってる?」
『別に。ただ単純にびっくりしただけ。・・・いつのまに布団に入ってきたんだよお前 』
「・・・えーっと。夜中?でもね主に一緒に寝て良いかきいたら“好きにしろ”って言たんだよ-?覚えてる?」

・・・そんなこと訊かれただろうか?でも、なんか夜中に喋ったような気がする。覚えてないが。というか、全く経緯が掴めない。急にどうしたうちのエース君。

『・・・しかし、なんで急に』
「・・・・・・主、最近構ってくれないんだもん」

思い返すと最近近侍は短剣であることが多いことに気付いた。加州が率いる一軍は基本的に遠征に行かせるし、初期よりは一緒にいる時間は確実に短くなってはいる。そもそも、一緒に居ても俺が本読んでたり書類書いてたりするから話したりじゃれられたりすることも少なくなった。
それが、原因?

「・・・主は、俺のこ と好き?“どうだろうな”っていうのは無しで。濁さないで、教えてよ」

彼は少し不安そうに眉をひそめると消えそうな声でそう聞いてくる。いつもであれば“どうだろうな”なんて濁しているのだが、たった今退路を断たれた。
なんというか・・・。面倒くさいな。

「俺ひょっとしたら、飽きられたんじゃないかって、思って」

赤い瞳が揺れる。
あぁ。だから少し距離おいてるような態度取ってたのか。この場合彼になんと言えばいいのだろうか。“好きだ”と言うべきなのか?本当に?嘘かもしれないその言葉を軽々しく吐いていいのだろうか。それは、俺が耐えられない。積極的な感情なんて持つべきじゃない。本来なら向けられたくもない。しかし、求められているのならそれに応え なければならない。

『・・・わかんねぇなぁ。みんなのことが同じぐらいに大事だから。そもそも物事の“好き嫌い”がよく分かってない人間に聞くようなことじゃないだろ』

確実に言えること。本丸のみんなが大事であるということしかない。神様を好みで順位付けするなんてとんでもない。本来であれば、言葉を交わすことすら、目にすることすら、触れることすら―――許されない。
そうは言っても、結局俺は審神者という立場に流されているだけなのだけれど。

『要はさ、胸張って“好き”って言えないんだわ。俺。恥ずかしいってーのもあるけど、それ以前の問題として本当に誰かを好いている感覚を知らない』

知ってるのかもしれないが全部嘘で偽物で虚像であると思い込んで いたら本当に、分からなくなった。いつしか、“なんでもいい”“どうでもいい”が口癖になった。向けられた好意に嫌悪を抱いてしまうこともあった。それは普通じゃないらしい。故に、悪目立ちしてしまう。だから誰の目にもつかないように機械的に感情を処理する努力をした。テストの一問一答よろしくである。
正しい感情などないのに。
挙げ句の果てに自分が見られていると認識した瞬間に吐き気がする。だから、向けられてるものをすべて否定した。
・・・最低だな。私は。今に始まったことじゃないが。

『・・・君は、僕のこと好き?』
「うん」

迷いのない答えに。自分が直視されていることに。否定しちゃいけない感情に。聞かなきゃ良かったという後悔に。
心臓が飛び上が る。過呼吸になりそう。うまく頭が働かない。

『・・・勿体ないからさ、その好意は他の子にあげて。私の代わりにみんなを可愛がってあげて頂戴』

・・・最低だ。私は。結局逃げたいだけなんだ。ーーーなんて、酷なお願いなのだろうか。
静かに目を閉じる。彼の顔は見えない。見たらいけない気がする。こっちの感情が乱れてしまう。それはとても怖いことだ。
訪れた沈黙に早まった拍動を合わせるように息をする。

「―――だ」

刹那。一瞬彼とは思えないような低い声が耳に届く。
驚きで目を開けたときには加州に強い力で抱き寄せられていた。

「嫌だ。本当に好きなのは主だけだって。主は、知ってるんでしょ・・・?」
『・・・いいから。放せ』
「俺、主じゃな いと嫌だよぉ・・・」
『―――。・・・泣くなよ。もう』

まぁ、泣かせたのは俺なんだけど。
彼の腕は私には熱すぎて、痛すぎる。そして、重すぎる。

「主の愛が貰えるなら、他に何も要らない。主のためなら死んでもいい」
沖田総司のことはどうする気だ』
「あの人は、もういない。忘れたわけじゃない。忘れたいわけでもない。けど、今の俺には主しかいない」

芯のある言葉。曇のない言葉。彼の愚かなぐらいに真っ直ぐな心。
・・・屈曲して伽藍堂の心に反響する。やはり、気のせいかもしれないが。
大体勿体ないどころか、手に余る。それ以前に、好意を受け止める度量も資格もない。

「・・・"好意を受け取る資格なんてない"とか考えてる?」
『・・・』
「 俺には"資格なんて要らない"って言ってくれるのに。なんで、自分が苦しいときに俺に何もさせてくれないの?」
『・・・思考読んでんじゃねぇよ』

なんか、悔しいというか不愉快というか。なんとも形容し難い気分になる。確実に、少しづつ、感情が揺らぐ。

「主のこと、もっと知りたいのに」
『やめてくれ』
「なんでそんなに」
『やめろ』
「理解されることを嫌がるの?」

あぁもう。なにが嫌なのか分からないけど、勝手に拒絶の言葉が口から溢れる。衝動的に突き放したい気分なのだけれど、金縛りの様に指先1つ動かない。代わりと言ってはなんだが、頭はとてもクリアである。状況が悪化した。

『嫌がってるつもりは、ない。でも、仮に、俺のことを理解してしまったヤ ツがいたとして。そんなのに出会ってしまったら、多分、いや、十中八九俺はそいつがいないと生きていけなくなる。それはとても怖いことだと、思う。それは愛でも恋でもなく、ただの寄生と依存だ。そんなのとてもじゃないが、みっともなさすぎる。死んだ方がましだ』

何が言いたいのか分からない文面に、我ながら呆れるばかりだ。知能が低い癖に饒舌だからもう救いがない。
腕の力が強まる。体と体の間には殆ど空間はなく、お互いを物理的隔てているのは衣類と各々の皮膚ぐらいだ。
正直、痛い。

『それに、何も理解しようとしない人間が他人に理解を求めるのは、幾ら何でも自分勝手だろうさ』

物事にはある程度報復性がある。そして、現実の人間関係の殆どは報復性により成り 立っている。
尽くさなければ、尽くしてもらえない。
努力しなければ、報われない。
祈らないなら、救われない。
理解を放棄すれば、理解を拒まれる。

それだけ多くのものがもとめられている。ただし、それはあくまで求められているだけだ。手を差し伸べるほどに望むことを忘れる。あとは狂うか壊れるか。稀に救われたりもする。

「苦しいのに、苦しいって言っちゃいけない理由なんてねぇだろ」

長らく無言だった彼は怒気を孕んだ声で言った。しかしどこか優しい気で諭すようなニュアンスも含んでいる。
この珍事に、俺は何も言えない。

「主はもっといろんなこと言って良いんだよ・・・?もし主の言葉にいちゃもんつけるやつが居たら俺が片っ端から斬り殺すから」

おおう。流石俺の初期刀。一番俺と長くいるだけはあって考えが物騒・・・いや、最早狂ってる?

「だから。何でも言って主。できれば俺だけに」
『・・・まぁ、努力はする』

なんの努力だ。

『お前も普段通りになんか要望があれば何なりと。大体のことは実現するようにするからさ。・・・お前も無理すんなよ』
「・・・。じゃあ、早速」
『なんだ?』
「・・・襲っていい?」
『はぁ?』

今なんて言った?
つい突発的で突拍子のない発言に頭が置いてけぼりになっている。しかし、加州は待ってくれるわけはない。
一瞬にして視界が明るくなった。そして両腕と下っ腹辺りに重みを感じる。顔なんか直視出来るわけもなく、目を瞑ったままそっぽを向く。

『馬鹿 っ!!それはいただけない!』

我ながら、意味不明な発言だ。

「・・・"何でもいい""好きにしろ"ってあんまり簡単に言わない方がいいよ?主のことこういう目で見てるのは多分俺だけじゃないからさ」
『あぁ・・・もぅ・・・』

急激に跳ね上がったであろう心拍数を整えるようにゆっくり息をする。本来浅く息をしたいのだからなかなかに苦しいが。

「主、可愛いね」
『・・・殴るぞ』
「甘やかしたくなる」
『・・・愛されたいんじゃねぇのかよ。最初と言ってること違うぞ』

そうこう言ってるうちに態勢がまた変わる。今度は背後から抱きしめられてる。最早、彼の思うままにされてる。

「んー?違ってはないと思うよ?俺は主と相思相愛になりたいんだから。まず は俺から愛さないとね」
『・・・・・・・・・』
「もしかして恥ずかしがってる?ねぇねぇ~」
『っ!か、加州!くすぐったい、っつーの・・・』

スリスリと頬を寄せてくる加州。
頬の温度。髪の感触。加州の匂い。

あぁ。
俺は幸せ、なんだろうなぁ。

「・・・あ、主?」
『お前は暖かいな』

俺は体を加州の方に向けるとそのまま抱きしめた。彼は少し驚いたようだが、すぐに抱き返してくるのだった。

『なんか、人間として生きてるのも悪くない気がするよ』

幸せを実感できない俺は不幸なのか?
まぁ、でも、今はなんとなく幸せを実感出来てる気がする。本物なのかは分からないが。

「少し、おやすみ」
『うん』

 

いつの間にか意識は沈 んでいて、薬研が起こしに来るまで二人は各々の夢を見続けていた。


to be continued...?



後書き



あとがき


はじめに当サイトにおこしくださり、ひいては、小説に目を通して頂いてくださり、ありがとうございます。

今回サイト開設にあたりわざわざお題(あざとい加州)を設けて書いたわけですが。ほのぼのにするはずだったのにどうしてこうなった(笑)
とはいえ、私の中では加州はあざといイメージがなくて結局思うがままに書いてしまいました。如何でしたでしょうか?

この主人公は未公開の小説の主人公なのですが、やっぱり自分に似ますね(笑)
もし要望があれば(もしくは続編を多数あげることになったら)プロフィール的なものを公開したいと思います。

動画の方もよろしくお願いします 。

では、失礼。