Novels@solo/trio

サークル「solo/trio」の小説置き場です。

<C&P>【銘無しの名無し:内番1/2】

「今日はお休みだ」
『・・・はい?』

一瞬、何を言われたのか分からず聞き返す。
いつも通り、朝食の時間に遅れてきた僕。珍しくぎねさんもたぬきさんも食べ終った後に起しに来たので、大広間には僕と何人かしかいない。そこに、審神者さんがやってきた次第なのだが。

「今日は出陣は無し。その代わりと言っては何だけど内番を割り当てるから」
『えぇ・・・?僕は別に田貫さんたちと一緒じゃなくても大丈夫ですし…。どうせだったら』

何もしたくないです。

・・・なんて、口が裂けても言わないが。
審神者さんはどこか勘違いしているようで、遮るように言葉を続けた。

「いいのいいの。大体、御手杵たちはもう遠征に出てるから。今日は本丸で内番しながらゆっくりして、な?」
『・・・審神者さんが、そういうなら従いますけど』

不承不承頷いた風になったが、彼が言うとおり今日はのんびりと内番をやって過ごそう。
というか、そうせざる終えない。

「ああ、今日は髭切と馬当番だから彼のことよろしくね」
『あ、え。はい。分かりました』

・・・困ったことになった。


* * * * * *


困ったことになった。

というのも、その“髭切”の顔が思い出せないのだ。審神者さんがさらっと名前を出したところをみると、どうやら初対面ではないようだが。当てにはならないか。
・・・どうにもこの体には対人記憶能力に著しい欠如があるようだ。

内番服に着替え部屋を出、悶々としながら 馬屋へと歩みを進めているるとなにやら馬以外に誰かがいることに気づいた。ここからではよく見えないが白いジャケットかなにかを羽織っているようだ。その影は一瞬、動きを止めたと思ったら馬屋の中を移動している。
すると、その影の主はひょっこり顔を出してあたりを見渡し、こちらに気付いたのか僕を見てにっこり笑って手招きをした。

『・・・?』

「   」

思わず自分もあたりをキョロキョロしてしまう。適当にあたりを見回したところで、正面に向き直ると彼の唇が動いているのに気づいた。どうやら“君だよ”と言っているようだ。
呼ばれているらしいことを察した僕は小走りで彼に駆け寄る。

『えっと。髭切さん、ですよね・・・?』

明らかに覚えてないこと丸出しで話しかけた僕をとくに気にする様子もなく和やかな雰囲気で応じてくれる。

「今はそう呼ばれているかな?まぁ、君とは殆ど初対面だから正直、名前を呼ばれるなんて思った無かったよ」
『ですよねー』

やっぱり、初対面か。どうりで何一つ思い出せないわけだ。
勝手に納得していると彼は「ちょっとお話しようか」といって近くの縁側に座るように促した。
・・・意図が読めずに言われるがままに隣に少し空けて座る。

「えーっと…君のことはなんて呼べばいいのかな?」
『・・・なんでもいいですよ。みなさん、“嬢ちゃん”とか“お嬢”とか呼んでますけど、僕としてはくずでもゴミでもいいです。個体識別できれば』
「流石に女の子とことをそんな風にはよべないなぁ」

と、 僕の自虐に少々困ったように笑う。本題ではなかったのか「まぁいいか」と考えることをやめたようだった。
なんと大雑・・・。おおらかな人だ。好感が持てる。

「今日は馬当番よろしくね」
『ええ。こちらこそ』

この人は結構マイペースらしい。
というか、この短時間で大体の性格が分かるということは余程強烈な人格をお持ちなのだろう。まぁ、この本丸の面々は正直、個性の殴り合いをしているようなところがあるからそこまで驚いているわけではないが。髭切さんもその中の一員ということだろう。

「・・・君とはちゃんとお話してみたかったんだ」

唐突にそんなことを言い出す。
意表を突かれて彼の横顔を凝視するが、穏やかな表情で空を見上げる横顔からは何も読み取ることができなかった。次の言葉を待つこと無く、驚いた勢いでどうしてですか?と言っていた。

「んー。そうだねぇ。確固たる理由はないけど、単に君に対する興味かな」
『あー。なるほど。僕しかいませんもんね女士』
「まぁ、そういうことでもあるね」

どこか含みのあるニュアンスに"何に"興味があるのかを察した。何も言わない僕に薄ら寒い笑みを向ける。ソレについてどうしても話したくない僕は、これ以上この話が続かないように内番の話題を振る。それはそれでまた含み笑いをされてしまったが。

『えーっと・・・。そういえば僕がやる事ってありますか?』
「やることならいくらでもあるよ」
『・・・良いんですか?こうして僕と話していて』
「内番は一日だし、のんびりで良いと思うけど。根詰めるようなこともないしね」
『僕、手合わせと炊事以外の内番初めてなので色々教えて欲しいです』

何が意外だったのか、そうなのかい?なんて、さっきの表情とは打って変わり、少し驚いたように目を見開いてクスリと笑う。
初対面でこうして間近で話すこと自体が初めてだからそれとなく、容姿に思考がいく。・・・どの角度から見ても整っている顔、とでも言えば良いのか。雰囲気も相まって見とれそうになる。
まぁ、惚れるなんて間違ってもできないのだろうけど。

「僕に教えられることがあればいいけど。まぁ、君とのおしゃべりは内番しながらでも出来るし、ちょっといろいろやってみようか」
『はい。よろしくお願いします』

ついさっき座ったばかりだというのに、立ち上がって馬小屋の方へと進む。
ぱっと見、空きが多い。おそらく、今出撃している部隊が連れて行ったのだろう。
白く小さい馬が二匹と、真っ黒な馬が一匹が大人しくこちらを見ている。

「まずは、慣れるところから始めようか。動物は好きかい?」
『はい。馬は乗ったことしかありませんけど』

真っ黒い馬に触れる。
拒絶されるのでは。そんなことが頭をよぎったが、別に可もなく不可もない反応だった。生物特有の温度と手触りに心地良さを感じつつ、内番のことに思いを馳せるのだった。



* * * * * *

・遠征
 資材を調達する手段。時間は掛かるが大成功すると中々にうまい。

・内番
 ステータスを運で上げられる。なかなか上がらない。

・髭切
 源氏。不思議属性強めのおじいちゃん。この本丸では比較的新人だが、腕は立つので出陣回数は多い方。主人公の正体を推測している一人。

・馬
 社会性の強い動物。まぁ、食べたり出来るけど。基本もしくは、普通乗り物。